なぜ、「動くかどうか」より先に「測る」なのか
転職を考え始めるきっかけの多くは、今の会社への不満です。給料が上がらない、工程が下流のまま、夜勤がつらい。ただ、不満の大きさと市場価値は、まったく別のものです。不満が大きくても市場価値がまだ低ければ、動いても条件は下がりかねない。逆に、不満は小さくても市場価値が高ければ、今の会社との交渉や小さな移動で条件が大きく改善することもあります。
つまり順番は、「動くかどうか」を先に決めることではありません。先にやるのは、自分の値段を測ること。その測定器として一番手軽に使えるのが、エージェントの登録と面談です。費用は企業側が持つ仕組みなので、求職者は測定にお金をかけずに済みます。転職を決めた人だけが使う道具、という思い込みがいちばんもったいない。
このサイトの他の記事で繰り返してきた「登録と面談は広く、絞るのは応募」という進め方は、そのまま測定の進め方でもあります。測るだけなら、広くていい。動くと決めてから、初めて絞ります。絞った先の並べ方(練習の面接の置き方)は、本命の前に受ける練習の面接は、書類が通る企業で作るに書きました。
面談で「測定値」になる4つの材料
面談は、担当者の感想を聞きに行く場ではありません。次の4つを、自分の市場価値の測定値として拾って帰る場です。
1. 提示される求人の、工程と年収帯
自分にどの工程(フェーズ)の求人が、どの年収帯で出てくるか。それが、企業側から見た今の立ち位置です。運用保守の求人ばかり年収帯も現職並みなら、市場はまだそこに値段を置いています。設計・構築の求人が混ざり始めたら、立ち位置が動き始めているサインです。工程マップと突き合わせると、読みが具体化します。
2. 書類への反応
職務経歴書のどこに担当者が食いつき、どこを「この書き方だと企業に伝わりません」と言うか。それは、企業の読み方の代理データです。反応が薄い箇所は、経歴がないのではなく、企業に判断材料として届いていない箇所だと読んでください。直し方は書類のチェックリストの記事にまとめています。
3. 担当者の評価の言い回し
担当者は、率直な評価を遠回しに言うことがあります。読み解きの目安は「具体性」です。具体的な求人名と年収帯を挙げて話すなら、今の市場価値で勝負できるという評価。逆に「もう少し経験を積んでから」のような抽象論で終わるなら、現時点の評価はその程度だという測定値です。どちらも、落ち込むための材料ではなく、現在地のデータとして受け取ってください。
4. 紹介求人の内訳の寄り方
紹介求人には「いける5割/チャレンジ3割/無理だが魅力的な2割」の内訳がある、という話を仕分けの記事で書きました。自分の場合、その内訳がどこに寄っているか。チャレンジ求人ばかりが並ぶなら、現在地は本命の1段下です。「いける」の中に行きたい工程が入っているなら、動ける側の測定結果です。
測定結果の読み方:3つの分岐
測ったら、結果は次の3つのどれかに落ちます。分岐ごとに、やることは違います。
分岐1:今すぐ動く
提示される年収帯が現職を明確に上回り、行きたい工程の求人が「いける5割」に入っている。これは動ける側の数字です。ただし、動くと決めても応募は本命5社程度に絞る。このサイトの進め方は変わりません。測定で得た年収帯は、交渉のときの希望額の根拠にもなります。希望額と企業側の上限の関係は、年収交渉は担当の腕で変わる。企業が出せる上限ラインの読み方にまとめています。
分岐2:不足を埋めてから動く
チャレンジ求人には手が届くのに、「いける」には入らない。そういう測定結果が出たら、先に切り分けるのは「足りないのが何か」です。書類の書き方だけの問題なら、直せばすぐ動けます。工程の経験そのものが足りないなら、今の会社で設計・構築寄りの仕事を取る、担当範囲を広げるなど、半年から1年で埋める計画にしてから動く方が、結果として早い。焦って今の値段のまま応募を繰り返すと、書類で落ちた記録だけが積み上がります。
分岐3:今の会社で使う/動かない
市場価値が現職の条件とほぼ同じか、現職の方が良い。そういう結果も、無駄ではありません。測定値は、そのまま今の会社で使える材料になります。市場で提示された年収帯は、評価面談で「自分の市場での位置づけ」を伝えるときの根拠になるし、担当業務の見直しを求める材料にもなる。そして、値段を知った上で「残る」と決めるのは、逃げでも停滞でもなく、選択です。不満の正体が「値段の安さ」ではなく「工程や働き方」だと分かれば、社内での動き方も変わります。
「動かない」と決めたときの、担当者との付き合い方
測定だけして動かないのは、担当者に悪い。そう思う必要はありません。面談の入口で「まだ転職を決めたわけではなく、まず自分の市場感を知りたい段階です」と伝えて構いません。意向を偽って応募まで進み、最後に辞退する方が、よほど双方に無駄が出ます。
動かないと決めたら、決めたことを正直に伝えてください。「面談で自分の現在地が分かりました。今期は動かないことにします。条件の合う求人があれば、連絡だけもらえると助かります」。これで十分です。あわせて、連絡の頻度(数か月に1回、メールのみ等)を取り決めておくと、付き合いが長続きします。
やってはいけないのは、音信不通です。合わない担当者は切っていいし、担当者の変更を申し出るのも普通のことです。ただ、連絡を絶つ形で終わらせると、自分の市場情報を仕入れる入口を1つ閉じることになります。切るなら、切ると言って切る。それが測定を続ける人の作法です。担当者の見極め方は、初回面談で切っていい、の記事に書きました。
測定の前に、やっておくこと
測る精度は、面談に持っていく材料で決まります。最低限、次の3つを揃えてから面談に臨んでください。
- 職務経歴書は、直しすぎず現状のものを持っていく:測定したいのは「今の書類が企業にどう読まれるか」です。盛った書類で測ると、測定値そのものがずれます。反応を見てから直すのが順番です。
- 希望条件を「譲れる/譲れない」で分けておく:年収、工程、勤務地、夜勤の有無。全部を「できれば」で並べると、担当者はどこに値段を置くべきか判断できません。譲れない条件が明確な人ほど、提示される求人の精度が上がります。
- 今の年収と担当範囲を、正確に言えるようにしておく:測定の基準点は現在地です。年収(基本給と賞与の内訳)と、自分が持っている範囲を曖昧に伝えると、返ってくる測定値も曖昧になります。
あわせて、測定は1社だけで完結させない方が正確です。担当者によって評価の言い回しも、得意な求人の寄り方も違う。2〜3社で測れば、測定値の中央値が見えてきます。1社の担当者の一言で一喜一憂しないための、保険でもあります。
測定は、一度で終わりじゃない
市場価値は固定じゃありません。工程が1段上がる、クラウドの経験が付く、社内で調整役を担う。それだけで、提示される求人と年収帯は変わります。逆に、同じ仕事を続けるだけでは、相対的な値段は下がっていくこともある。
だから測定は、転職活動ではなく棚卸しの習慣として置いてください。半年から1年に一度、あるいは経歴に変化があったときに、測り直す。それだけで、「気づいたら動けなくなっていた」という事態は避けられます。
転職するかどうかは、最後に決めることです。先にやるのは、自分の値段を知ること。